なかみ・みづきの灰だらけ資料庫(書庫)

~仲見満月が言葉を折る灰色の部屋~

【レビュー】こだま『夫のちんぽが入らない』

<本記事の内容>

一.はじめに~本書の新聞広告から~

読了は随分前でしたが、レビューを書くタイミングを失ってしまっていた本がありました。その本が、こちらになります。

 

こだま『夫のちんぽが入らない』扶桑社、2017年

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もたもたしている間に、二月一二日の朝日新聞四ページ目の広告に、「タイトルなし」の形で紹介され、その出来事事態がネットニュースとして、取り上げられることになりました。 しかも、二つのメディアで…。

 

nlab.itmedia.co.jp

withnews.jp

 

新聞の広告には、タイトルに男性の性器名が入っており、そこが掲載困難という規定に引っかかってしまったようです。一三万部突破した売り上げの本なら、タイトルなしでも、帯に入れた有名人のメッセージや著者の名前で、書店に行けば探してもらえるだろう。そう出版社の担当者がふんだようで、『※書名は書店でお確かめください。』という広告表示になったそうです。下が実際の朝日新聞の四ページ目の広告で、買ってきて私も確認しました。

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ここまで、話題になったならレビューを書いてしまわないと、また機会を逸することになりそうだ。という判断で、今回、内容や感想、本書の出版背景など、まとめることに致しました。 

 

先にお断りさせて頂きますが、本書は広告どおり、夫婦が二〇年の間に苦しんできた物語で真面目なストーリーです。が、タイトルが示すとおり、内容には性的な描写や事項も含んでおります。また、主人公である妻、それから夫の行動には、倫理・法律などの観点から、不適切ではないか?と思われることもあるかと存じます。

以上の点について、特に未成年の方、それから夫婦関係について倫理・法律的な観点から不適切な内容を読むのが難しいと感じられた方は、時間をおいて成人されてから再度ご訪問頂く、あるいはブラウザバックして頂くことをお勧め致します。

 

それでも、読みたいという方は、「続きをよむ」を押してお進みください。

 

 

二.ストーリーと感想 

夫のちんぽが入らない。から、物語は唐突に始まります。二人は、ジョン●ン&ジョン●ンやメロンのローションを潤滑剤として使ったものの、血だらけになりながら試行錯誤するが、入らない。そして、この「入らない」という一文は、主人公がたどる次の人ような生経験のプロセスで、「挫折」するたびに登場する言葉でもあります。

 ・小学校教員時代に、担任をしたクラスで学校崩壊が起きてしまったこと

 ・学級崩壊の苦悩をネット上に書き込み、連絡先まで載せた日記ページを公開

  →不特定多数の男性と性的な関係を結ぶことで「他の男性には入る」ことを知る

  →ますます、精神をすり減らしたこと(後に出会った親切な男性の一人から、日記運営側が出会い系サイトの系列のところだと聞いて、日記を削除)

 ・上記の出来事と並行して、度重なるストレスが契機となってか自己免疫疾患を患って退職したこと

 ・性的欲求を家庭外に求めた結果か、オーディオデッキに突っ込んだままのアダルト作品や、ネットの風俗店サイトの履歴を通じて、思いもよらず夫の秘密を知ってしまったこと

 ・自己免疫疾患の治療薬を止めてまで、不妊治療、いや「妊活」に取り組み、夫のものを入れようとするけれど、妻である主人公は息が絶え絶え。家事どころか、日常生活さえ、ままならなくなり、「妊活」を諦めざるをえなくなったこと

 ・三〇代後半で主人公は閉経を迎えてしまい(医師による自己免疫疾患の影響があることを指摘される)、受け入れてあげられない自分の代わりに、夫が通う風俗嬢に「夫のことを頼みます」と心の中でお願いしてしまったこと

 ・義実家と自分の実家の同世代の兄弟姉妹のなかで唯一、妊娠・出産できなかった主人公は肩身の狭さを感じ、とうとう、主人公の母親は長女である主人公を連れて、夫の実家に行き、身体が弱くて娘が跡継ぎを産めないことを謝罪しに行く、という行動に出たこと

 

などなど、私が読んでいると主人公だけでなく、登場人物たち皆さんが不器用な正確で、お互いの気持ちがかみ合いにくく、行動が空回りしてしまい、ますます、心身をすり減らしていったのだと思われます。そもそも、主人公の生い立ちからして、不細工で情緒不安定な母親に、不細工だの、醜い顔だのと「呪い」をかけられ続け、大人しい方向に成長していったため、主人公は今でいう「自己否定感の強いコミュ症」な不器用な大人に出来上がったのではないか?と。

 

そして、物語の半分を占める人物の夫。彼と主人公の出会いは、不思議なもののようでした。東北の極端な田舎というには乱暴な、小さな集落で育った主人公は、進学を機に大学のある都市に一人暮らしで引っ越してくる。下には妹が二人おり、両親が付き添って住むことになる街で、リサイクルショップに行き、家電をそろえるところから主人公の学生生活はスタートします。家電が運び込まれたと思われる学生アパートに主人公が引っ越してきた夜、家具を組み立てていた部屋に、一人の男子大学生がノコノコと入ってきて、組み立ての主導権を奪ってきた。

 

その後、ポケモン初代のオ―キド博士のごとく、主人公を連れて街を案内したり、勝手に世話を焼いていくなかで、この男子大学生は主人公は親しくいなっていきます。出会ってから何日か目の日に、男子大学生は主人公に告白し、二人の「お付き合い」は始まります。やがて、男子大学生のものが「入らない」ことに、二人は衝撃を受けます。この後も付き合いを重ねていき、お互いが教員採用試験に合格して奉職後、同居・入籍そてからも、「夫のちんぽが入らない」問題は、ずっと主人公を苦しめてゆきます。

 

性交渉をする上で、性器の形状に問題があるなら、今の時代なら然るべき科の病院やクリニックに行って、手術を受ければ改善はするでしょう。そういう意見を、私はアマゾンのカスタマーレビューやネット上の感想で見かけました。ただ、自己否定感が強く、コミュニケーションに難のあった主人公にとって、手術を速い段階で受けに行くということは、時代的にも非常にハードルの高いものだったと思われます。

 

そのうち、主人公は自己免疫疾患にかかり退職してから、入院と小学校の臨時講師を繰り返す中、今度は夫が仕事のストレスでパニック障害になってしまい、それに寄り添うことになっていきました。そんな日常の中で、自分の両親が妹たちの子を世話する様子から「丸くなった」と主人公は感じます。更に主人公は、成長途中で厳しく叱ってきたことを母親に謝罪されるという、思いもかけない経験をします。

 

 

こうした様々なプロセスを通じて、主人公たちは、

ちんぽが入らない私たちは、兄妹のように、あるいは植物のように、ひっそりと生きていくことを選んだ。

(本書p.3より)

のでした。 

 

 

三.まとめ~および本書の出版経緯とその周辺情報~

 その一、本書のまとめ

まず、本書を読んでいて、気が付いたことをまとめたいと思います。

 

変わった家族に囲まれ、情緒不安定気味な親に怒られる「不遇な」幼少期を主人公が送ったこと、自叙伝的小説であること、小学校が少なからず舞台になっているという点で、先の【レビュー】天咲心良『COCORA 自閉症を生きた少女 1 小学校 篇』 (以下『COCORA』)と共通点を持つているように思いました。

 

異なるのは、本書は小学校教員として教壇に立つ主人公に対し、『COCORA』のほうは主人公が小学生として初等教育を受ける立場にあった点です。加えて、分かるのは母親と主人公の関係変化の描かれ方です。本書の主人公が年齢を重ねて丸くなった母親から成長期の厳しく、きつい態度をとられたことの謝罪を受け、和解したと思われるのに対し、『COCORA』のほうでは続編の二巻の思春期篇では突き離されてしまったままであったようです。

 

本書を読んでほしいと私が思う人は、教員同士で結婚した夫婦の方々です。様々な問題を抱えた家庭の子たちの通う小学校・中学校・高等学校。そこに赴任する学校教員の中には、学校の非常勤講師の話~lemon「フリースクールに通って感じた、「個性尊重」教育の矛盾」をきっかけに~ で書きましたように、

(先月)28日のイベントの自己紹介で喋りましたように、10代の小中高の生きづらさの究明をしたくて、教職課程に進みました。作家のこだまさん(『夫のちんぽが入らない』著者)と同じで、「自分の学校生活、楽しかったんだぜ!イェーイ!」じゃない私みたいな人でも、教職免許取得しようと思うんだぜ!

学校の非常勤講師の話~lemon「フリースクールに通って感じた、「個性尊重」教育の矛盾」をきっかけに~ 

というネガティブで、真面目な「コミュ障」気味の私のような者も少なからず、おります。 自分の人付き合いの苦手なところに疑問を持ち、教職課程を通じて、同じような困難を抱えた児童や生徒の力になりたい、という教員もいるかと。ただ、こういった真面目な「コミュ障」気味の教員だと、著者のように不器用で、空回りを繰り返し、学級崩壊が起きても独りで抱え込んでしまう事態になりかねません。

 

同じように、著者の夫は夫で、担任をしていないクラスの生徒にも声をかけ、親身になって指導した結果、警察に保護された高校生が夫の名前を告げ、夜中に迎えに行くといった、別の意味で真面目すぎ、心身を削っていく様が描写されています。詰まるところ、教員同士の妻と夫は、お互いに十分なコミュニケーションがとれなくなり、更に疲労をためこみ、悪循環に陥っていく危険性をはらんでいたのです。

 

合わせて、育ち盛りのお子さんを抱えている共働きの保護者の方々にも、読んで頂きたいと思いました。特に、学校教員だって家庭を抱えた人間であり、様々な意味で「限界があること」を本書を通じて、ご理解いただけたら助かります。

 

 その二、本書の出版経緯とその周辺情報

次に、本書の出版経緯とその周辺情報をまとめて紹介したいと思います。

 

先のネットニュース記事の真面目な自伝本「夫のちんぽが入らない」が新聞広告に掲載……も、タイトルが「入らない」 斬新な広告デザインが話題に - ねとらぼによれば、

もともとは2014年に同人誌として発表されましたが、同人誌は発売されるなり即完売。重くつらい経験を独特のユーモアを交えてつづり、大きな支持を得ました。そんな伝説的な作品を大幅に加筆修正したものが、扶桑社から出版された新バージョン。

真面目な自伝本「夫のちんぽが入らない」が新聞広告に掲載……も、タイトルが「入らない」 斬新な広告デザインが話題に - ねとらぼより)

という、同人誌発の作品でした。ちなみに、私がいろいろと検索したところ、著者のこだま氏は「主婦ブロガー」として、次のブログを運営されているようです。

塩で揉む livedoorブログ

 

主に出展されている同人誌即売会は、文学フリマという文芸作品ジャンルを中心とするイベントのようです。本書は、最初に『なし水』という合同誌に収録された同名作品を「大幅に加筆修正」して、扶桑社から出版したものです。ちなみに著者の所属するサークルでは、引き続き、合同誌を出されているようですので、気になる方はいろいろ、調べてみられると分かると思います。

 

なお、本書のあとがきの最後の方を読むと、エッセイ漫画家のましゅうきつこ氏*1がアドバイスに関わってたようで、なかなか、著者の人間関係の広さを知ることができます。

 

ここまで、本書に関する色んな情報を書いてきました。比較するのも何ですが、『COCORA』より、作中に挿まれるギャグやダジャレのようなノリの言葉は多い印象を受けました。私なんか、声を出して泣き、鼻水まで垂らしながら、笑い声を上げて読むという滑稽な状態で読み進めています。私のような状態になっても大丈夫なように、読む場所はプライベートなスペースをチョイスしましょう!

 

壮絶といえば壮絶。読む前に、一度、扶桑社の特設サイト、およびツイッターの公式アカウントを覗かれてから、書店に行くのもよいかもしれません。

www.fusosha.co.jp

twitter.com

*1:などのコミックエッセイで知られる漫画家。

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