なかみ・みづきの灰だらけ資料庫(書庫)

~仲見満月が言葉を折る灰色の部屋~

【レビュー】神戸遥真『休日に奏でるプレクトラム』と『休日に恋するプレクトラム』~マンドリンと社会人サークルの小説を読む~

久々に読んだ本の感想をまとめておきたいと思います。2020年5~6月期は、楽器のマンドリン演奏の社会人サークルが舞台の小説シリーズです。

 

1.第1作の『休日に奏でるプレクトラム』を読む

:シリーズ第1作は、メディアワークス文庫から商業書籍として出ています。物語は、主人公の花崎未奈が大学サークルで練習や運営によるトラブルでマンドリンを離れた後、就職した会社の上司・堂ノ上によって社会人マンドリンサークルに引っ張ぱりこまれたところから始まります。彼女は、仮加入してから半年後の演奏会の成功を目指し、また苦い思いをした大学時代のサークル活動にリベンジするためにも、上司に「青春のやり直しをしてはどうか?」とすすめられるシーンが出てきます。また、未奈が入ったサークルには問題が1つありました。それは、以前にリーダーをしていたメンバーが辞めた際、演奏のクオリティが下がるのを指摘したコントラバス担当の真咲がしばらく練習に出ていなかったこと。彼女を復帰させることを目標に、まず堂ノ上はコミュニティ祭での演奏を成功させるよう、主人公に説明します。

 

本作の中には、マンドリンの歴史や、前半の山場であるコミュニティ祭で弾かれる曲の解説や、オーケストラ形式でのマンドリン演奏者の席順など、丁寧に掛かれています。初心者の方でも読みやすい!主人公のいる会社はITシステム分野で、残業や納期の話が出てくるのは、ちょっとキツかったです。

 

 

2.第2作の『休日に恋するプレクトラム』を読む

続いて、第2作の「恋するプレクトラム」のほう:

休日に恋するプレクトラム

休日に恋するプレクトラム

 

あとがきによれば、第1作の売上が振るわなかったせいか、商業書籍として出してもらうことが難しかった事情があるとのこと。私が読んだのは、bccksから出ているプリントオンデマンド(POD)の紙版です↓

bccks.jp

BCCKS / ブックス - 『休日に恋するプレクトラム』神戸遥真(著)、井田千秋(イラスト)著

このほか、アマゾンのKindleなど、電子書籍の配信中の様子です。

 

前作が「主人公の未奈マンドリン好きの上司に誘われ、社会人演奏サークルの賛助会員で、演奏会を目指す話」。それに対して今作は、サークルに正式加入後の未奈とその周りの恋模様が変化していくほうに焦点が当てられ、タイトルどおりの内容でした。「恋の群像劇」と呼ぶに相応しい進行では、マンドリン一筋の堂ノ上と主人公の未奈未奈と職場の後輩の高峰、サークルのギター担当の大学生とコントラバス担当の真咲。季節は、夏を過ぎ、秋から冬へ向かう。「果たして、それぞれ思いは実るのでしょうか?」といったところ。

 

ストーリーの主軸となるものでは、前作から続いていた未奈と堂ノ上のほうの「恋するプレクトラム」が演奏会のアンサンブルで決着します。主人公がIT企業に勤務していたこともあり、徹夜明けから社会人サークルの練習や演奏会に出発するシーンが続くと、主人公の体が心配になる展開もありました。 20代半ばに無理をしていると、その2~3年後にはガタが来るので、本当にやめたほうがいいですよ!と健康面でもリアルな続編でした。案の定というか、クリスマスコンサート関係で未奈が熱を出し、上司に自宅まで運ばれるシーンもありまして。

 

PODの紙版では文庫サイズで全体が本文190ページ。文字が前作の商業文庫本より小さく、その分、内容が濃くて読むのに時間を要する。内容では、主人公のサークルが参加するクリスマス演奏会までで一区切りし、1巻分。そこから堂ノ上とのアンサンブル経てラストまでで、更に1巻分の長さ。PODで出された背景を知っている私としては、著者の思いを考え、「出せてよかったですね!」と言いたいし、続きは続きで、ストーリーに強弱がつき、何度かの山場を迎えながら終息→次の山場へを繰り返す。その中で、主人公の年代特有の社会人としての悩み、不器用さは共感できます。

 

恋模様といえば、前半のクライマックスであるクリスマスのコンサートで、緊張状態にあったギター担当の大学生と真咲の仲は、固まります。途中、在宅仕事による多忙で練習に出られなくなった彼女を心配し、未奈が自宅を訪問して一緒に呑むシーンがありました。2人の会話には、アラサーの真咲が若い大学生との交際を年齢面で気にする話が出てきて、アラサーの女性読者には年下の人と付き合う上で共感する人も出て来るんじゃないでしょうか。

 

社会人サークルのリアルな側面では、例えば、マンドリンのサークルに参加している主婦の「塔子さん」が、子供の受験が重なり、サークルと家庭の両立に悩み、それを堂ノ上が振り返って主人公に話すことがあったり。転勤でサークルリーダーが抜けざるを得ずの状態になって、練習が厳しくなったり。楽器演奏に限らず、社会人サークルや複数人の同人サークルでは、「あるある」なんじゃないでしょうか?

 

 

3.シリーズ全体を読んでのコメント~おわりに~

このシリーズは、タイトルに「休日に」の言葉が入っているとおり、メインは土日のマンドリン演奏。仕事のある平日から休日に至るまでの流れがある中、主人公たちが気持ちを切り替えるシーンが挟まれています。平日と休日は繋がったものではありますが、堂ノ上の見せる性格が職場と演奏のある休日とではスイッチする描写があって、その差に主人公が振り回されるのも、このシリーズの面白さでしょう。

 

そうそう、著者も言っていますが、社会人のサークル活動には学生時代の部活やサークルと違い、引退がないんですね。そういった意味で、就職してから始める趣味の活動について、真正面から続ける苦しさや醍醐味を突きつける『休日に奏でるプレクトラム』と続編の『休日に恋するプレクトラム』は、自分の仕事と趣味の活動を見直すきっかけを読者にくれるかもしれません。

 

思うことは様々ありましたが、マンドリンの社会人サークルのことを知らない方でも、楽しめるポイントが沢山ありました。気になった方は、ぜひ、探してみてお読みください。

 

おしまい。

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