なかみ・みづきの灰だらけ資料庫(書庫)

~仲見満月が言葉を折る灰色の部屋~

【レビュー #文フリ #アンソロジー】『失恋手帖』by 「揺れる」編集部

<本記事の内容>

0.はじめに

この頃、色んなSNSのタイムラインに流れてきた、こちらの記事↓

tettu.hatenablog.jp

 

長い一文にすると、BuzzFeedJapanや株式会社ノオト等のスタッフのうち、私の年代の方々が「揺れる」というサークルを作って、各業界の第一線で活躍されている人たちに失恋話を書いてもらい、まとめたアンソロジーです。

 

今年の勤労感謝の日文学フリマ東京で頒布されたようで、上記の記事を読んでいたら、既に書店委託が始まっていた!ネット通販でも買えるとのこと、さっそく、自分が出展する年明けの文フリ京都の準備をしつつ、買って読んでしまいました…:

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なお、通信販売はこちら、とのことでした。

 

 

1.自分の関心と『失恋手帖』

上記の「揺れる」編集部の方の山口亮さんが、別のエントリ記事で書かれているように、所謂、私も他者の恋話を聞くのが好きな人間で、「他人の感情を楽しみに生きているゲス野郎」なのかもしれません。

 

だがしかし、そういう「ゲス野郎」な私でなかったら、今から500年前どころか、2000年くらい前の東アジアの人々がどう生活していた、とか、どんな形の住居でどんな神様を進行していて、どんな願い事を持っていたか、なんて博士課程まで進学して、研究なんてしていません。要は、他者である人間、他人様の生き方に興味を示す部類なんです。その生き様に隠れていることが、その人たちが抱えている「真摯な何か」を表しているのではないかと感じ、一生懸命、学術研究という名のもと、掘り下げていたようなものです。

 

博論で扱った史料や古典文学作品には、”人情小説”、いわゆる今のヒューマンドラマとラブストーリーを足して2で割ったようなジャンルのものもありました。そういうわけで、現代日本人の恋話にも興味があり、『失恋手帖』を拝読することにしました。

 

 

2.本書についての感想

サイズはA5判、本文38ページ。印刷所は、30部からのオフセット印刷を手がける、あの丸正インキさん!自分が文字書きのコラム同人誌を出すようになってからも、オンデマンド印刷の私にとっては、最初のほうの「揺れる」編集部の序文や、目次背景の写真の黒いインキがテカらず、「文芸同人誌にも、オフセット印刷はいいなぁ」と、感嘆していました。

 

それはさておき、本題の失恋話について。執筆者の方々は、編集部よりひとまわり年上から、同年代、少し年下と思われる方々まで、それぞれの業界でご活躍され、また失恋も十人十色といった印象でした。

 

例えば、しげるさんの「彼女と炊飯器と、Kさんのこと」を読んでは、 遠距離恋愛をしていて、泊りがけが基本だったという友人の経験談を思い出し、「確かに、部屋の掃除って、他者に言われて実行しても、そのクリーンで整った部屋の状態を維持できることって、難しいよね」と頷く。烏丸おいけさんの「思い出は、未来の残骸」は、冒頭の元カノに買ってもらい、今も使い続けているバッグ、財布から冷蔵庫やレンジなどの大きな家電まで、「別れたからといって、その後の自分の生活がプレゼントされたものに乗っかって継続している限り、経済的なことを考えると、手放せないのは、分かる。だけど、買ってくれた人の記憶は遠ざかってゆく」という、皮肉な現実を思わずにはいられませんでした。

 

関係が倦怠期に入ったり、別れたといっても連絡をとって会って食事をしたり、恋人や元恋人と離れる時に、残滓といっていいのか分かりませんが、「情」のようなものを抱える苦みを書いておられるのが、嘉島唯さんの「あの子が消えた日」と中道薫さんの「やがて悪癖」です。恋愛関係の長期化や、つかず離れずな曖昧な関係の継続の過程で、起こる当事者たちの重いは、経験者でなければ書けないものでしょう。

 

坂本七海さんの「天国」を読むと、片思い相手と食事しに行った時、緊張のし過ぎで食事が進まないことに可愛らしさと、食事のおいしさは感じないけれど天国に行ったみたいな、幸福感に共感を持ちました。私にも、そういった時代があったよなぁ、と。

 

にゃるらさんの「二次元への失恋」には、三次元で痛い失恋に遭った後、どっぷりと浸った乙女ゲームのキャラクターへの熱烈な思いを想起させられました。アオヤギミホコさんの「どうか捨てておいてください」や、幡ヶ谷はつだいさんの「彼女はオーガと「旅」に出る」では、オンラインによるネット中心の交流の先にある出会いや、交際を通じた失恋を見つめて、電子空間があっても、その先に人間がいれば「恋」はあるのだと納得。メールやチャット、Twitter等のやり取りに、どうしても熱がこってしまう時の理由が分かるようでした。

 

私や周囲の人たちがあまり経験したことのないタイプの失恋では、宮崎智之さんの「中田英寿に似た男は信用できない」のお話で、高校時代に彼女との固定電話の子機での長話で、宮崎さんが寝落ちしてしいまう場面で、私もやってしまいそうだと危機感を感じました。また、チョーヒカルさんの「雨の高円寺、削られてゆく身体とこころ」では、お互いに恋人がいる者同士の体だけの関係を続け、わが身を削いでいくエピソードは、 削られながらも、ズルズルと続けてしまう関係に、かつて味わわされた三次元での痛い思いの後も、サークルで顔を合わせ続ける度、その人の前で笑いながら、心で泣いていた自分を重ねてしまいました。

 

様々な失恋話の中で、ひときわ、異彩を放っていたのは、海猫沢めろんさんのインタビューでした。「恋愛というドラッグ、あるいはホラー」と題され、海猫沢さんの半生における様々な女性に対し、「片思いしてハイになって、相手にホラーな行動をとってしまう」部分は、私の笑いを誘いました。が、一歩間違えれば、自分も相手にこれまでの人生で破天荒な行動をとってしまっていたかもしれない、と背筋が凍るような海猫沢さんの経験談でした。そして、奥様から言われても、「パトロール」した相手の女性や、落研の女子大生といった「ハイ」の対象の女性の方たちには、謝罪しに行かないほうがよいと思います…。

 

そして、バンド活動をしている音楽家の高橋勇成さんの「僕の場合」では、何度も、「別れ」を切り出したり、彼女は戻ってくるとポジティブな行動を取ったり、それに対して彼女もきっぱりと決断できない、双方が揺れ続けた一連の思い出をつづったお話でした。終盤で、高橋さんは失恋について、次のように述べておられます。

 僕は音楽家ですから 、どんな負の感情も曲に消化できます。あるいは、昇華できます。僕は問うてみたい。そうでない人たちは、この感情を一体どう処理して、そしてどう忘れていくのでしょうか。やはり時間というものは、想像以上に偉大なものなのか。
 恋人にフラれた友人は、「この恋愛は一生引きずる」と言っていました。
 時間に縛られない、そんな感情もあるのだろうと僕は信じたいし、失恋というものが、それほど人生に大きな影響を与えるものであるのは間違いないと思います。

(本書p.25)

 

本書『失恋手帖』に書き手として参加された方や、高橋さんのような音楽活動をされている方、あるいは、物書きの手段を持っている人には、恋にまつわる正負の両方の感情を表現し、「消化」あるいは「昇華」させることが一応、あると言えるのではないでしょうか。ただ、その恋のあり方、終わり方、内容によっては、ご友人のように一生引きずりながら、いつかは新しいパートナーと交際し、結婚する。あるいは、仕事や家のことに精を出して、日々を暮らしてゆく。その毎日は、かつての恋人や片思い相手の好きだったものを、いつの間にか、吸収して成り立っていることもあるかもしれまれせん。

 

そういった意味で、「失恋というものが、それほど人生に大きな影響を与えるものであるのは間違いない」でしょうし、人によってはその後の人生の一部になっていき、ひいては生き様に組み込まれていくこともあると、私は考えています。

 

 

3.最後に

すべての書き手の方の失恋話について、だいたい、感想を書けたかな、と思います。

 

失恋、というか、そこに至るまでの恋のプロセスは、感想の最後に取り上げた高橋さんの失恋話のところでまとめました通り、たとえ、一つの恋が終わっても、あるいはダラダラ、ズルズルと断続的になっていても、何かしら、その後の当事者たちの人生に影響を与えずにはいないものだと思います。その具体例として、海猫沢めろんさんが、ドラッグをキメてハイになり、相手にはホラーな行動の恋をしていた割に、インタビューで語られた奥様が、冷静で正気のまま付き合える女性だと言っておられるのは、『失恋手帖』の中でも、意味深いことではないでしょうか。

 

そういう、様々な失恋に思いを馳せられる『失恋手帖』、面白く読ませて頂きました。本書が頒布された文学フリマは、日本各地で開催されています。私も、年明け1月21日の第二回文学フリマ京都に出展致します。今回、レビューさせて頂いた『失恋手帖』と共に、第二回文学フリマ京都も、よろしくお願い致します。参加者の方は、きっと『失恋手帖』のように、すてきな本との出会いがあるでしょう。

 

おしまい。

 

 

 

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