なかみ・みづきの灰だらけ資料庫(書庫)

~仲見満月が言葉を折る灰色の部屋~

第六回 #文フリ大阪 の作品書評~ #並木陽『青い幻燈』を読む~

<今回の内容>

1.まえおき

先日、「研究室」ブログに載せた記事「第六回 #文フリ大阪 の作品書評~ #並木陽『マインツのヴィルヘルム』を読む~ - 仲見満月の研究室

に引き続き、 第六回 文フリ学大阪で購入した本の読了レビューです。今回は2冊目をやっていきますよ!

 

並木陽『青い幻燈』銅のケトル社、2015年

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ネタバレにご注意ください。

 

 

2.物語の主な内容

舞台は19世紀のフランスはパリ、ラテン区の古いアパルトマン。画学生で黒髪のオクルス、その同居人で法科の学生ながら、豊かな金髪を持つ詩人のアヴィスは、降誕祭の直前、越してきたひとりの少女と出会う。上品な物腰の少女は、ただグリゼット(お針子)とだけ名乗り、近くに職場を見つけ、働き出した。

 

グリゼットは、画家の傍らにいた猫の「ブハンシュフルール」に似ていた。あるいは、かつて詩人が記した物語のヒロイン「シヒスムンダ」の雰囲気をもっているようでもある。彼らはガラス屋根のあるパサージュ(遊歩道)を行き交い、ある時は3人で舞踏場に繰り出す。また別の日は仕事を抱え、少女は職場から帰宅する。

 

ともに時間を過ごすうち、少女に惹かれる青年たち。彼らの前に、ある日、「永遠の孤独と引き換えに、芸術家の魂の充足を約束しよう」と契約を持ちかける、紳士のヘル・ゾールスが訪れる。

 

パノラマ館の近くで、幻燈の物語を見る途中、胸を患っていた画家は、その場を抜け出し、吐血して倒れ込んでしまう。その姿を目にしたアヴィスは一人、走り出す。ゾールスを呼んで、契約を求めた詩人に、グリゼットが止めに入る。少女は自身を差し出し、紳士と馬車に乗って去っていった。アパルトマンに戻ったアヴィスを迎えたのは、果たして、誰なのか――。

 

 

3.作品へのコメント

本文は56ページで、判型は文庫。表紙カバーはパールのように光る紙が使われています。光を当てると、キラキラしたパリの遊歩道のガラス屋根が再現されているようで、何とも素敵!

 

カバーの裏表紙側に書かれたキャッチコピーは、「一瞬に魂を燃やす若者達を描く56頁」で、ジャンルとしては青春ものでしょうか?時系列としては『マインツのヴィルヘルム』の「アウグステの結婚」から100年くらい経った頃のパリだと思われます。長さは『マインツのヴィルヘルム』の2編より短いはずなのに、私は本作を読むほうに時間を要しました。

 

今まで読んだ並木さんの作品では、いちばん新しい時代で、雰囲気ではベルエポックの頃。怪盗ルパンのシリーズが出版され、人気をはくした時期と重なりそうです。舞台のアパルトマンといい、モラトリアムの時間を過ごすような主要人物の2名といい、その空間は、ほぼ現代のそれらと変わりません。

 

タイトルに入ってる幻燈は、たぶん、ピクチャー入りのスライドを電灯で透かして、講釈師が話すという仕組みで、当時は大衆にとっては娯楽だったのでしょう。もう少し後に出てくる映画を彷彿とさせられました。実際、幻燈で語られる物語として、本作が冒頭から始まる感じでした。

 

並木さんの作品では、前近代を舞台にした歴史小説が好きな私は、正直、本作は感想コメントをしづらいかな、と。

 

青年の画家と詩人のもとに、一人の少女がやって来て、恋の三角関係に展開するのかと思えばそこまで発展ぜずに、物語は終了します。夏目漱石の『こころ』の、お嬢さんをはさんだ「先生」とKとのやり取りのように、親友同士のオクルスとアヴィスの穏やかな関係が、グリゼットをはさんで、もっと大きく変化し、片方の青年の苦悩パートを入れたら、深みが出たかもしれません。

 

例えば、詩人が、友情と恋の板挟みや、詩作と俗的な幸福のどちらを取るか、心ががグチャグチャになっていく、と。そんな時、親友の画家の命が長くないと知り、現世の人間関係の温かさに限界を感じた詩人は、俗世を捨て、ゾールスに最高の詩が書ける才を求めに行く。そこへ止めに入ったグリゼットにより、アヴィスの問題は解決される。詩人は、恋した少女の献身により、親友は救われ、友情を失わずに済んだのである。という感じの流れであれば、私はより引き込まれよう(思います。

 

あとは、ゾールスが提供する「芸術家の魂の充足」とは、具体的にどんなものなのか?より詳しい説明があれば、その後の展開に深く響かせられたでしょうか。アヴィスがゾールスに対して、「悪魔のメフィストなのか?」と尋ねるシーンがあったので、そのあたりは、もう少し、説明の余地があったように思います。

 

この作品を膨らませたら、より魅力的な中編や長編になりそうです。それはそれで、新作として読んでみたいな、と思いました。

 

 

4.むすび

コメントしづらくはありましたが、頑張って、レビューしてみました。いかがでしたでしょうか。

 

そうそう、私が好きなキャラクターは、オクルスです。本編は、どちらかというと、アヴィス視点で進んでいたので、続編には、オクルス視点の作品が出たら、買うかもしれません。次は、70ページくらいで!

 

以上、『青い幻燈』の書評でした。次回はいつになるか不明ですが、文フリ大阪で買った他の作家さんの作品を読んで、コメントしていくつもりです。

 

おしまい。

 

 

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