なかみ・みづきの灰だらけ資料庫(書庫)

~仲見満月が言葉を折る灰色の部屋~

【ニュース】「センター試験地理「ムーミン」出題が話題 不正解受験生嘆き 公式ツイッター「反省」」(スポニチAnnex)

<今回の内容>

1.はじめに

本日、センター試験一日目でした。受験生の皆さん、大変お疲れさまでした。どうも、寒中見舞いを印刷したり、来週末の文学フリマ京都の新刊同人誌の準備をしたり、引きこもりな仲見です。毎日寒いですが、「人魚姫」や「雪の女王」といった文学作品、サンタクロースのふるさと、北欧よりは暖かいと信じておりますが、いかがでしょうか。

 

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今日、ネットニュースで気になったのが、北欧に関すること。具体的には、センター試験の社会科の地理Bと「ムーミン」が出題された話題です↓

www.sponichi.co.jp

 

ムーミンに関して、実は私が高校の非常勤講師をしていた際、世界史の期末テストで太平洋戦争が終わったぐらいまでを出題し、そのテスト返しが終わった後、第二次世界大戦の在スウェーデン日本大使館に勤務していた軍人(いわゆるスパイ)と、その妻をめぐるエピソードで、取り上げたことがありました。非常勤講師をしていたのが、3年くらい前で、今回のムーミン出題のニュースを興味深く思い、こちらのブログで取り上げることにいしました。

 

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2.「センター試験地理「ムーミン」出題が話題 不正解受験生嘆き 公式ツイッター「反省」」(スポニチAnnex)を読む

 2-1.受験生の「ムーミン」に対する認知度の問題

まずは、センター試験ムーミンが取り上げられたことに、どういった問題があったのか、オンライン記事を見てみましょう。

 

センター試験地理「ムーミン」出題が話題 不正解受験生嘆き 公式ツイッター「反省」

 本格的な入試シーズンの幕開けとなる大学入試センター試験が13日、全国の695会場で始まった。「地理B」でアニメ「ムーミン」に関する問題が出題されたと、インターネット上で話題を呼んでいる。

 

 スウェーデンを舞台にしたアニメ「ニルスのふしぎな旅」を例に、ノルウェーフィンランドを舞台にしたアニメについて、フィンランドに関するアニメと言語との正しい組み合せを4択から選ぶ問題。アニメは「ムーミン」「小さなバイキングビッケ」の2択、言語はイラスト付で「ヴァ コステル デ(いくらですか?)」「パリヨンコ セ マクサー(いくらですか?)」の2択。

 

 ムーミン」の原作者はフィンランドの作家トーベ・ヤンソン。アニメは「ムーミン」を選ぶのが正解となるが、最初にアニメ化されたのは1969年。今の高校生には古いのかもしれない。「北欧3国の位置関係で言語の推察はできたとしても、ムーミンフィンランドは高校生にとって、どれほど浸透しているのか。センターで出すのは酷なような」と書き込む人もいた。

 

 間違えたとみられる一部の受験生がムーミン公式サイトのツイッターアカウントに対し「絶対に許さない。今すぐ国籍をノルウェーに変えろ」「おまえ、ノルウェーだろ?」などと恨み節。ムーミンが炎上気味になっている。

 

 「ムーミン」「センター地理」がツイッターのトレンドワードになり、反響。これを受け、ムーミン公式サイトのツイッタームーミンの舞台はフィンランドノルウェーか…という問題がセンター試験で出て、お怒りのみなさんも多いようで…。まだまだ知られてないんだな、と反省、もっと知ってもらえるよう公式サイトも頑張ります!これを機にムーミンの世界について知ってもらえると、うれしいな」と粋なつぶやきをした。
[ 2018年1月13日 13:45 ]

センター試験地理「ムーミン」出題が話題 不正解受験生嘆き 公式ツイッター「反省」― スポニチ Sponichi Annex 芸能、下線部は仲見満月によるもの)

 

今回のセンター試験の地理Bでは、フィンランドのアニメ・キャラクターにムーミンがいること。これ認識できていないと、まず、解けないという問題だったようです。オンライン記事では、「北欧3国の位置関係で言語の推察」とあり、ノルウェーか、フィンランドを選ぶようになっていたんでしょうか。

 

ここで、現役の高校生がムーミンを知っている確率について、少々、お話させてください。私が非常勤で世界史を教えていたクラスでテスト返しをした後、ちょうど、太平洋戦争開戦から70年余りが経った時期でした。それに絡めて、授業の余った時間で、在スウェーデン日本大使館に勤務していた日本人将校とその妻がいた話をしました。実は日本の敗戦を既に太平洋戦争開戦前に予測がつくほど、夫のほうは情報を欧州にいてつかんでいた、ということを話し、日本に報告したものの、開戦は避けられなかったと、生徒に伝えます。日本の敗戦後、2人はそれぞれ、別々の施設に収容されてしばらく過ごし、帰国後に日本で再会。失職した将校は貿易商会を日本で始め、妻は北欧の作品を翻訳して日本に紹介する仕事をしていきました。更に私は、「将校の妻が翻訳した作品のなかに、ムーミンのお話が含まれていたんです」と、黒板にムーミンの絵を描き、生徒に笑われながら、解説しました。

 

以上のエピソードで、具体的な人物の名前は忘れましたが、いろいろと調べると出てくると思いますので、気になる方は検索してみて下さい。この時、「ムーミンって、皆さん、どのくらいの人が知ってますか?知っている、聞いたことがある人は手を挙げて?」と質問。生徒の三分の一くらいが手を挙げた後、「先生、手を挙げてない人も、みんな、知っているんじゃないですか」と言う子がいました。という感じで、偶然かもしれませんが、3年くらい前に高校生だった人たちは、ある程度、ムーミン自体は知っていたと思われます。

 

次に問題となるのは、ムーミンフィンランドで生まれた作品だということが、果たして、今年のセンター試験の受験生にどれだけ知られていたか、ということです。オンライン記事にあるとおり、「アニメは「ムーミン」を選ぶのが正解となるが、最初にアニメ化されたのは1969年。今の高校生には古いのかもしれない」とすれば、不正解だったと思わしき受験生がTwitterで、ムーミンの公式アカウントに文句を言っても不思議ではありません。

 

更に、「ムーミン」をめぐる言語や国の問題は、出題者がスカンジナビア半島の複雑な歴史を知って置いたら、出題されなかったかもしれないんです。

 

 2-2.「ムーミン」原作者はスウェーデンフィンランド

もし、スカンジナビア半島の北欧3国の残り一つ、スウェーデンが選択肢に入っていたら、中途半端にムーミンのことを知っている人は逆に相当悩んだかもしれません。

 

まず、「ムーミン」シリーズの原作者であるトーベ・ヤンソンは、スウェーデン系の両親のもと、フィンランドで生まれたスウェーデンフィンランド人でした。詳細な解説は省略しますが、フィンランドは長い間、スウェーデンに統治された歴史があり、それだけフィンランド内にやって来たスウェーデン人の子孫も多かったのでしょう。フィンランドでは、最も話者の多いウラル語族フィンランド語(93%)に次いで、インド・ヨーロッパ語族・北欧ゲルマン系のスウェーデン語も広く通じる言語として使われているようです(フィンランド語 - Wikipedia)。

 

そういった背景があり、スウェーデン系のトーベ・ヤンソンは、ムーミンの原型となるキャラクターを出した作品が、「1945年にスウェーデン語で著された『小さなトロールと大きな洪水』」とされています(ムーミン - Wikipedia)。スウェーデン語の読者がフィンランド内に一定数いたこともあったのでしょうが、ムーミン・シリーズは、原作がスウェーデン語で書かれました(ムーミン - Wikipedia)。上記のとおり、フィンランド語とスウェーデン語では言語系統が異なるため、トーベ・ヤンソンフィンランド語ではなく、使い慣れたスウェーデン語で作品を書き続けたと考えられます。

 

また、日本にムーミンが紹介され、アニメーションが放送され、人気が出たきっかけも、もとをたどれば、スウェーデン語で原作が書かれたからと言えそうです。ムーミンの作品を戦後、最初に紹介されたと言われている翻訳者は、在スウェーデン日本大使館の日本人将校の妻でした。おそらく、彼女はスウェーデン語に親しんでいたからこそ、日本に帰国後、フィンランドの作品でスウェーデン語で書かれたムーミンの作品を翻訳して、日本に広めるきっかけを作ることができたんだと思います。

 

 オンライン記事によると、

ムーミン公式サイトのツイッターは「ムーミンの舞台はフィンランドノルウェーか…という問題がセンター試験で出て、お怒りのみなさんも多いようで…。まだまだ知られてないんだな、と反省、もっと知ってもらえるよう公式サイトも頑張ります!これを機にムーミンの世界について知ってもらえると、うれしいな」と粋なつぶやきをした。
[ 2018年1月13日 13:45 ]

センター試験地理「ムーミン」出題が話題 不正解受験生嘆き 公式ツイッター「反省」― スポニチ Sponichi Annex 芸能

ということがあったようです。いい機会ですので、ムーミン公式サイトのツイッターのアカウントの中の方には、「ムーミンの原作は、スウェーデン語で書かれ、フィンランドで生まれ、日本でも親しまれている作品です」と言う方向で情報を広めたほうが、作品を詳しく伝える意味では、適切ではないでしょうか。

 

 

3.最後に

ムーミンの原作はともかく、初期のアニメーションは日本で制作された(ムーミン (アニメ) - Wikipedia)、更に1990年代に別作品と言うべき『楽しいムーミン一家』(楽しいムーミン一家 - Wikipedia) がアニメ作品として存在しており、色々とムーミンのメディアミックスの事情は複雑なようです。

 

文学作品をもとに、過去の人々の習俗や生活について研究していた私としては、ムーミンの原作シリーズのように、執筆に用いられた言語と、作品の舞台や生まれた地域が「ずれる」ことは、けっこうあると考えています。トーベ・ヤンソンだけでなく、著者の歴史的なルーツや生き方により、舞台は著者の出生地であっても、作品の執筆言語は作品内で想定されている舞台では実際はほとんど話されていない言語である、という例は、探すとけっこうあります:

naka3-3dsuki.hatenablog.com

 

ただし、このあたりの歴史や文学の話は、高校の社会科や国語科、英語科では、詳しくは扱わない内容であり、よほど興味があって調べた人でない限り、高校生はもちろん、社会人でも知らなくても、不思議ではありません。そうは言っても、今回のセンター試験の地理Bで、「ムーミン」のことを出題するなら、少なくとも原作がスウェーデン語で書かれ、フィンランドで生まれた作品だということは、問題作成者には知っておいて頂きたいと、元世界史の臨時講師は感じました。

 

おしまい。

 

 

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